「企業の税務手続き完全電子化」はまだまだ遠い

目黒区の税理士 海老名洋明です。

2019年10月17日の日本経済新聞に

「請求書、紙の保存不要に 企業の税務手続き完全電子化 軽減税率対応しやすく」と題した記事

が掲載されていました。

記事では、2020年度の税制改正大綱に、企業の税務手続きで完全なペーパーレス化(電子化)を認めることを盛り込むとしています。

10月1日より10%と8%の消費税の複数税率制度が開始されましたが、レシートを見るとやはり会計処理が大変です。

その対応として、クラウド上の会計サービスを活用した書類の電子化を考えているようです。

えびな税理士事務所の税理士海老名は、多くの会計ソフトの使用経験を基に

  • お客様と初対面の段階から
  • 正直ベースでネット上には載っていない生の使用感、長所・短所をお伝えし
  • 最適な運用方法のご提案

を行っており、2019年分の確定申告のご相談を受けた際もお客様から「そうだったの!?」「初めて聞いた」という声を多く頂戴しております。

この記事では、実務面の詳細は分かりませんが税理士海老名がいくつかコメントします。

 

電子化は確かに便利ではある

レシートや領収書は、申告が終えるとなかなか見ることはありませんし、保管スペースを食うばかりです。

自宅開業されている方は特に負担を感じていることでしょう。

その点、書類をすべて電子化すると保管スペースがゼロになりますからうれしいことでしょう。

実際、えびな税理士事務所とお客様とでは、GoogleDrive、Dropbox、チャットワーク、Slackといったツールでやり取りすることが多く、将来的に電子化がさらに広がることは確実です。

 

スキャンしておけばいい、というものではない

現在も「電子帳簿保存法」で、国税関係書類を電気媒体で保管することができます。

ただし、手続きが煩雑で、中小事業主にはハードルが高いものとなっています。

事前の申請、一定の解像度の指定、タイムスタンプ、などとても面倒です。

資料がべらぼうな量になる大企業向けと考えてよさそうです。

今回の改正でもう少し使い勝手のいいものしようと考えているようですが、それでも

レシートをスキャンしたデータをそのままパソコン上やクラウド上に保管しておけばいいというものではないといえそうです。

青色申告の承認申請のように気軽にできるものではありません。

 

クラウド上のサービスを提供する業者がサービスを停止したら

税理士海老名は何度も指摘していますが、

クラウド上のサービスが停止したらどうするの?

という疑問には業者も税務署も答えていません。

クラウド上の会計ソフトを提供する業者は、新興企業を中心に赤字決算で資本政策で純資産を維持しています。

業者の倒産、サーバーの設置場所での災害、サービスの提供を予告なく停止したら、

データにアクセスできなくなる可能性がゼロではありません

年に1回まとめてクラウド上のサービスを利用するユーザーの場合、気付いたときにデータにアクセスできなかった、ということもあり得ます。

確定申告や税務調査があった際は、電子媒体で保存した領収書類の原本は既に廃棄されているでしょうから、対応が大変困難になります。

 

クラウド上の経費機能を使いこなすユーザーは少数

レシートをスキャンして会計上の仕訳を作成する機能がありますが、

  • 使用には追加料金が必要
  • スキャンの精度が低い
  • 数字の入った店名の数字や電話番号を拾う
  • レジ袋割引といったイレギュラーへの対応が不十分
  • 手書きの領収書がまだまだ多く、ダブルスタンダードでの記帳がなくならない
  • 手打ちの方が早いと考える税理士が多く、ユーザーへの導入支援が進んでいない

といった理由でクラウド上の経費機能は広がっていません。

 

強引な値上げリスク

電子で書類を保存できるという理由だけでクラウド会計ソフトに移行するのはおすすめしません。

現在のクラウド会計ソフトの使用料は、インストール型の会計ソフトの概ね2年分です。

2-3年ごとの値上げが続いており、今後も新たな機能の追加と称して大幅な値上げをすることが想定されます。

2019年6月には、マネーフォワードにおいて個別のサービスの利用者に対して他のサービスを抱き合わせに料金を2倍以上に値上げし、利用者に大きな混乱を与えました。

動画配信、配達料無料などのメリットを感じやすいAmazonが年会費を上げることに納得感があっても、クラウド会計ソフトには不十分な点が多く、値上げへの抵抗感が強いようです。

会計ソフトを購入せずに、自分でExcelで経費を管理することや会計事務所に丸投げするやり方もまだまだ有力です。

 

フィンテック企業以外の従来からの業者の動向も注視を

既存の会計ソフトの業者も、使い勝手はともかくクラウドを使用した会計機能は一応あります。

この改正案に対して、様子見なのか、一気に攻めてくるのか分かりませんが、他のクラウド会計ソフトにも大きな変化があるかもしれません。

 

現実的にレシートなし・完全電子化はずっと先

えびな税理士事務所は30-40代のパソコンが商売道具のお客様が多いですが、

そのなかでもIT関係のコンサルティング業やシステムエンジニアの方以外の方にとって

クラウド上の各種機能を使いこなすのはハードルが高いようです。

税理士 海老名本人の確定申告では、Excelで経費関係を入力し、弥生会計へインポートする形式を採っています。

レシートの量が少ないので、1か月をまとめてホチキス留めして保存しています。

仮に現状よりも使い勝手が良い税制改正があったとしても、ITスキルの高いひとり事業主または経理担当者がいない限りは完全電子化はなかなか進まないのでは、と推測しています。

 

まずは上手にレシートの保管を

情報の保管先が、紙だろうとクラウドだろうと、まずは元となる領収書、レシート、請求書を整理しないと話が始まりません。

レシートがくしゃくしゃでしたらスキャンすらできません。

  • 月別に
  • 内容ごとに
  • 伸ばして

保管することから始めましょう。

 

ページの上部へ戻る

トップへ戻る

電話番号リンク 問い合わせバナー