東京都目黒区の税理士 海老名洋明です。
確定申告期限の3月15日が迫っております。
当事務所のお客様においても、クラウド会計ソフトを利用される方はある程度ITスキルの高くて、簿記の知識がなくても自分で調べて形にしようとする意識の高い方が多く、頭が下がる思いです。
一方で、クラウド会計ソフトを使う方で、
デザインなど(Macユーザーが多いですね)の報酬の源泉所得税を徴収される方が
「楽」「便利」に作った青色申告決算書、確定申告書が実は結構危ない、という事例に多く遭遇しました。
預金口座同期のワナ~口座残高合っていますか?
クラウド会計ソフトは、預金口座の同期機能を売りにしています。
入出金について、日付と金額、そして勘定科目の候補が表示され、クリックするだけで簡単に決算書ができることを売り文句にしています。
ところで、個人事業主の申告においては事業と家事分(私用分)を明確に区分しましょうという決まりがあります。
その決まりに基づいて、損益については事業の部分のみ決算書の「損益計算書」に反映させるわけですが、「貸借対照表」はそうとは限らないのです。
預金口座を同期した際、右に表示される、
freee「無視」、マネーフォワード「対象外」の意味を理解していますか?
freee「無視」、マネーフォワード「対象外」の意味
事業用の普通預金の残高は、青色申告決算書4ページ目の「貸借対照表」に記載します。
12月31日現在の残高を1円違わず正確に記載する必要があります。
でも、同期機能にワナがあります。預金の同期の仕訳候補の横にある、「無視」「対象外」ボタンを無意識に押していませんか?
「無視」「対象外」は私用の取引を外すためにあるボタンではありません。
例えば、預金口座がふたつあって、口座間で資金の移動をしたとき、同期したそれぞれの口座で同じ仕訳がふたつ登録されてしまいます(「二重仕訳」といいます)。
すなわち、A口座からB口座へ100万円を移動したとき、同期したそれぞれの口座について、
A口座で「B口座から100万円受け取った」
B口座で「A口座へ100万円送金した」
が同じ取引にも関わらず、それぞれ別の取引として2回同じ仕訳が登録されてしまうのです。
そのようなことを防ぐために、A口座かB口座のどちらかで「無視」「対象外」という処理をして、登録される仕訳をひとつにするのです。
口座がひとつなら「無視」「対象外」を押さない
個人事業主の方は特に、このボタンを私用の取引を除くボタンとしてとらえてしまっています。
事業用と私用の両方に使用している口座の場合、事業用の取引だけを登録して、私用(例えば生活用のお金の引出)を「無視」「対象外」したところ入金だけ仕訳が登録された結果、帳簿上は大金持ちに、ということが起こります。
これって、税務署からみるととても目立ちますよ。何かあるのでは?と税務調査になり、帳簿がぐちゃぐちゃで青色申告取消し、なんて可能性もあります。
「無視」「対象外」の表現はかなり前からそのままで、先ほどの事象についても両社とも知っていますが、ユーザー向けの説明のある場所が分かりづらく、いつまでたっても改善されません。
多少の簿記知識がなくては、正しい(後で追加で税金を納付することのない、または、最初の申告で税金を支払いすぎることのない)決算書や申告書を作ることができないことを示していると思います。
源泉所得税分の売上計上もれ~支払調書のワナ
預金の同期機能に関連して、請求金額から源泉所得税を引かれて入金ということがよくあります。
預金口座へに売上代金が入金された際、何の疑問もなく入金額を「売上」として登録するユーザーが多いかと思います。
そして、翌年1月から2月にかけて請求先から1年の売上金額と源泉徴収税額が記載された支払調書が送られてきます。
ここに書いてある源泉所得税がワナなんですよね。
支払調書に記載された源泉徴収税額をそのまま申告書へ転記してしまう(1表44欄や第2表「所得の内訳」の「所得税及び復興特別所得税の源泉徴収税額」)のですよね。
源泉所得税はあくまで所得税の前払いです。
結局のところ、入金額だけを売上に計上していると、源泉所得税分の売上が計上もれとなってしまうのです。
この現象は、クラウド会計ソフトに限った現象ではありません。
でも、クラウド会計ソフトをご利用の方の多くは自力で何とかなると思って、同期されたデータそのままを登録して、合っているかどうかもわからぬまま「楽」「便利」に決算書、申告書を提出している場合がとても多いと思います。
支払調書は参考程度に
支払調書は、支払者が税務署へ提出するものであって、支払いを受けるこのページをご覧の皆さんに提出する義務はありません。
また、支払調書は申告書ではないので、本当にあっているのかも分かりません。
支払調書は、「請求ベース」で1年間の支払金額と源泉徴収税額を記載するものです(12月請求1月入金も反映させる)。しかし、現実には実務上の簡便性から「支払いベース」(12月請求1月入金も反映されない)で作成されている場合が多いです。
ですので、支払調書に書いてあることをそのまま確定申告書の売上や源泉徴収税額に記載するのは、実は危ないのです。
開業初年度ほど、税理士のアドバイスの活用を
売上が漏れていたという方は、既に申告していても今から修正すべきです。
日常の会計処理、税額の計算だけでなく、事業供用割合をどうしようか、社会保険料は?(所得税は少なくても実は社会保険料が多額の方がとても多いのです)、消費税の納税義務は?といった事業主の疑問、不安はたくさんあります。
このような疑問、不安を解決するヒントは税理士にあります。
えびな税理士事務所は、真面目に事業に取り組む事業主の皆様を全力でサポートします。
特に、開業して間もない個人、法人の事業主の皆様の気持ち、熱意を、同じ立場の人間としてとてもよく理解できます。