クラウド会計コラム⑮~利用規約の読み比べ

東京都目黒区のクラウド税理士 海老名洋明です。

これまでクラウド会計ソフトを使用しても、データのバックアップは必要であることを繰り返し述べてきました。

ベンダーが倒産したら、サーバーがダウンしたら、せっかく苦労して入力した会計データに一生アクセスできなくなるかもしれません。

この点、パソコンは壊れてもハードディスクがあればデータを助け出すことも可能ですので、クラウド会計ソフトこそ緊急時の備えが必要であると考えます。

ところで、クラウド会計ソフトのベンダーのデータ管理体制について、確認したことはありますでしょうか。

今回は、マネーフォワード社、freee社の利用規約から、データ管理の体制を確認したいと思います。

 

データバックアップの規約

両社の利用規約を比べると、微妙にスタンスが異なることが分かります。

マネーフォワード社の場合

利用規約第16条(データバックアップ)

1 当社は、契約者のデータ等を、定期的なバックアップにより保管します。このバックアップでは、契約者のデータ等を、遠隔地保管を含めて3重に保管します。ただし、契約者においても、本サービスの利用に関連して入力、提供または伝送するデータ等について、必要な情報は自己の責任で保全するものとします。

2 当社は、当社システムの障害等によって契約者のデータ等が消失した場合、当社がバックアップしたデータ等を用いて復旧するものとします(契約者毎の要望に応じて、バックアップしたデータ等を提供するものではありません。)。

3 当社は、バックアップを、原則として毎日行います(契約者毎の要望に応じて、バックアップの日時を調整するものではありません。)。ただし、当社は、当社の裁量により連続7日間を限度としてバックアップを行わない期間を設けることができるものとします。

4 第2項に基づくデータ等の復旧後なお、当社システムの障害等によって契約者が本サービスにログインできない場合、 当社は、当該契約者に対し、CSVファイル形式その他当社が適当と定める方法でデータ等を提供することができるものとします。

(第5項以下は省略)

ユーザーも自己の責任でデータを保全するけれども、マネーフォワード社においてもデータを毎日バックアップして、遠隔地を含めて3重に保管します、もしダメでもCSVファイル等でデータを提供します、というところでしょうか。

割と積極的な文言ではないのでしょうか。

 

freee社の場合

利用規約第11条(バックアップ)

1 会員は、本サービスを通じて当社が提供し、または会員が取得した情報の全てについて、自己の責任において記録し、保存・管理します。

2 会員は、会員情報について、自己の責任においてバックアップ作業(当社が提供する本サービスの機能を利用する場合を含みますが、それに限りません)を行うものとし、当社は、バックアップデータが存在しないこと、または会員がバックアップ作業を適切に実施しなかったこと等により発生した会員の損害および不利益につき、一切の責任を負いません。

3 当社は、会員情報をバックアップとして記録することがあります。ただし、前項に定める会員の責任において行うバックアップを補完するものではなく、会員情報の復旧を保証するものではありません

4 有料会員以外の会員は、会員情報の一部が一定期間をもって自動的に消去されることを予め了承します。

会員情報とは、利用規約第1条(定義)(8)より、

「本サービスのために当社が管理するサーバーに保存された各種情報や通信記録その他の会員の一切の情報をいい、本サービスを通じて当社が提供し、または会員が取得した情報を含みます。」とありますので、入力した会計データを含んでいると解されます。

そこで、マネーフォワード社と大きく異なるのは、freee社は積極的にデータをバックアップすることを約していないということです。(何もしていないことはないとは思いますが)

また、データの保管はすべてユーザーの責任で行うように読み取れます。

仮にfreee社の何らかの障害によりデータが消失しても、こちらでバックアップしていないからリカバリーできません、バックアップしないあなたが悪いのです、と読み取れないこともありません。

現実を見ずに利用規約だけをもって管理体制を比較するのは危険であり、どちらのサービスがより優れているかは判断することはできないと考えますが、両社の書きぶりが大分異なることはお分かり頂けると思います。

 

損害賠償はどうなっているの?

とはいえ、ベンダー側に重過失があった場合でもベンダーはあなたが悪い、とはさすがにいえないでしょうから、損害賠償の条項を両社とも設けてあります。

 

マネーフォワード社の場合

利用規約第25条(保証の否認及び免責)

11. 当社は、本サービスに関連して契約者が被った損害について、当社に故意又は重過失があったときを除き、一切賠償の責任を負いません。なお、当社に故意又は重過失があった場合、及び消費者契約法の適用その他の理由により、本項その他当社の損害賠償責任を免責する規定にかかわらず当社が契約者に対して損害賠償責任を負う場合においても、当社の賠償責任の範囲は、当社の責に帰すべき事由により現実に発生した直接かつ通常の損害に限られるものとし、かつ、損害の事由が生じた時点から遡って過去1年間に当該契約者から現実に受領した本サービスの利用料金の総額を上限とします。

簡単に言うと、マネーフォワード社の故意又は重過失で損害が生じた場合は、過去1年間で支払った利用料金を上限に損害を賠償しますというところでしょうか。

 

freee社の場合

利用規約第23条 (損害賠償及び免責)

当社は、本サービスに関して会員に生じた損害について、当社に故意または重過失が認められる場合には、当該損害の直接の原因となったサービスについて、当該会員から受領した利用料金の1か月分に相当する額を上限してその損害を賠償し、それ以外の損害については一切その責任を負いません。

マネーフォワード社と表現は少々異なりますが、こちらも故意又は重過失で損害が生じた場合は、過去1年間で支払った利用料金を上限に損害を賠償します、と言っています。

 

利用料金1年分が上限!?

ということは、会計機能について、大まかに法人については月2,000円×12月=24,000円、個人については月1,000円×12月=12,000円が損害賠償の上限ということになります。

会計以外の機能を使用していたとしても、損害賠償の金額はせいぜい数万円が上限です。

当事務所では、決算処理時に正規の簿記の原則に則った会計帳簿を作成できなかった(貸借不一致仕訳が登録された)freee社に対して、厳重に抗議のうえ、1年分の利用料金を返金させたことがあります。

具体的に損害賠償が生じる場合をなかなか想定しづらいかもしれまんが、

一番痛いのはサービスが停止したため確定申告を期限内にできなくなった場合です。

直近においても2018年10月31日に緊急メンテナンスと称してfreee社の全サービスが停止したことがありました。

 

クラウド会計コラム⑭~2018年10月31日freee障害から学ぶバックアップの重要性~

 

期限後申告になると、無申告加算税延滞税といった本来払う必要がなかった税金の追加の納付、場合によっては青色申告の取消し、といったことが起こります。

さらに、金融機関等取引先からの信用の低下を招きかねません。

これが、3月15日に起こったとしたら、ベンダーは規約に則り1年分の利用代金しか返してくれません。

ちなみに、税務署は会計ソフトの不具合を理由に延長してもいいよ、とは言ってくれません。大規模な災害が起こらない限りは何も助けてくれないとお考え下さい。

 

税額が多額の場合は損害大、でも賠償は利用料金1年分

フリーランスなど小規模な事業を営んでいる場合は、仮にクラウド会計ソフトが利用できなくなったことにより期限後申告になったとしても、金銭面にそれほど大きな影響は生じないかもしれません。

しかし、取引規模が大きい場合(多くは法人です)、税額も何百万円、何千万円にもなることも十分に考えられますから、仮にベンダー側の重過失により申告期限に間に合わなかった場合の影響は甚大です。

追加の税金の納付だけなく、取引の停止を求められたり、下手をすると株主から訴訟を起こされる可能性だってゼロではありません。

そんな場合においても、ベンダーからの損害賠償は利用料金の1年分だけです。

ベンダーに訴訟を起こす気力のあるユーザーはそうはいないでしょう。

 

「大規模な」事業者はクラウド会計ソフトの安易な利用は危険

クラウド会計ソフトにおいては、預金やカード明細の同期機能など、経理業務の効率化に資する機能があることは事実です。

しかし、「大規模な」事業者の方においては、ここで述べた危険性を認識せずにクラウド会計ソフトを使用されるのは大変危険であると申し上げざるを得ません。

多少値が張ると思っても、保険の意味で素直に長年の実績のある弥生会計、勘定奉行、会計事務所が使用している会計ソフトを使用された方が安心かと思います。

税理士による正直な会計ソフト(弥生会計、マネーフォワードクラウド、freee)の比較(2018年12月現在)

 

「大規模な」と言葉を濁しましたが、例えば

毎年の多額の納税が生じる方、

申告する税目(事業税の外形標準課税、事業所税その他)の多い方、

事業所が多い方(均等割の納付先が多くなります)

が該当するでしょう。クラウド会計ソフトの導入を検討されている方は、毎年どれくらいの税額を納付しているのかご確認ください。

 

クラウド税理士を標榜しながら、こんなことを申し上げるのは自己矛盾かもしれませんが、これからの個人、法人の確定申告の繁忙期にあたり、リスクを周知するためあえてはっきりと書きました。

えびな税理士事務所の税理士海老名は、20種に渡る会計ソフト、税務ソフトを使用経験を有し、それぞれの長所短所を熟知しています。

クラウド会計ソフト、弥生会計の双方対応可能ですので、この会計ソフトでいいの?といったご相談に喜んで対応いたします。

 

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