目黒区の税理士 海老名洋明です。
暑い夏が過ぎ、本年も早いもので残すところ2か月ほどになりました。1年の売上のおおよその見込みが立ち、確定申告のことも考える方もちらほらといらっしゃることと思います。
当事務所では、ありがたいことに夏ごろから確定申告のご依頼を頂戴しています。どのお客様もインボイスの対応に苦慮していました。
加えて、目黒区や渋谷区、世田谷区といったエリアはクリエイターさんが多く、報酬の源泉徴収が絡み、いよいよ手に負えないという悩みを抱えた方が多いです。
ここでは、報酬の源泉徴収をされる方の確定申告は一筋縄ではいかないことを、税理士海老名の経験を交えてお話ししたいと思います。
もともと源泉徴収のあるクリエイターさんの確定申告はややこしい
カメラマン、ヘアメイク、モデル、ライターなどのクリエイターさんは、
- 取引先が多い
- 請求が細切れで、1年の請求書数が数10から数100に上る
- 源泉徴収される場合とされない場合がある
- 消耗品費や交通費など日々の細かな支出が多い
- 年またぎの取引(仕事は年内、入金は翌年)の判別をする必要がある
といった事情があり、もともと確定申告の手間がかかる業種です。当事務所のお客様には日常から領収書類を月ごと、項目ごとにまとめて定期的に送って頂くことをお願いしています。
ひとり法人で、例えばシステムエンジニアといった取引先が限られ、支出の多くを代表への給与が占める業種の法人よりもずっと会計処理や申告書の作成が大変です。
もともと大変である上にこんな要因が加わることで、クリエイターさんの確定申告をさらに難しくしています。
消費税のインボイス制度
2023年10月より消費税のインボイス制度が開始されました。消費税の申告では、所得税の確定申告とは全く別の集計を行うことが求められます。
- (本当はだめですが)帳簿を作らずに、通帳から足し算を売上や必要経費を計算している
- 会計ソフトやExcelで売上や必要経費を集計していない
といった状況で消費税のインボイスに登録した方は、消費税の申告を正しく行うのは大変であると考えます。
必要経費について、そもそも消費税を含んでいるか否かを判別(※)した上で、
- 税率8% + インボイス登録あり
- 税率10% + インボイス登録あり
- 税率8% + インボイス登録なし
- 税率10% + インボイス登録なし
と少なくとも4通りの集計を行う必要があります。
さらに、少額の支出に対する特例(平たく言うとインボイスに登録していない事業者に対する税込1万円以下の支出についても、インボイス登録ありの事業者に対する支出とと同じ扱いにする)が適用できるか判別し、売上の消費税の2割を消費税の納税額とするいわゆる「2割特例」とどちらが有利か判定します。
所得税の集計と消費税の集計を2度行うイメージです。
会計ソフトやパソコン(Excelといった表計算ソフト)で、所得税の計算と同時に計算できるノウハウがなければ、所得税額と消費税額を正しく計算するのは困難です。
国税庁のホームページで、青色申告や白色申告の帳簿の作成の方法が手書きの見本とともにアップされていますが、税理士海老名がこの方法で正しくできる自信は全くありません。
※ この判別も知らないと容易ではなく、例えば自宅の家賃を消費税を含んだものとして計算した方が、現実には結構いらっしゃると思います。
インボイスに登録していなくてもトラップあり
2年前の課税売上(平たく言えば税抜の売上金額)が1,000万円以下の場合は、消費税の納税義務がないというのは、多くの方がご存知のことと思います。しかし、
- 通帳の入金額をそのまま足し算した金額を売上にした(=10.21%の売上計上もれ)
- 年またぎの取引(仕事は年内、入金は翌年)の売上の計上が漏れた結果、消費税の納税義務が生じた
- かつ、支払調書に記載された源泉徴収税額をそのまま確定申告書に記載し還付を受けた
といった誤った処理により、税務調査が行われた結果、3年分(最悪5年分)の所得税、消費税(と延滞税、無申告加算税)のみならず、事業税、国民健康保険、保育料の追加の納付を迫られた実例があります(合計100万円を超えることになりやすいです)。
当事務所では、このような事情のあるクリエイターさんの問題を解決してきました。誤った部分は税務調査の臨場前に修正して、追加の修正を回避することで、傷口を少しでも減らすことを基本にとしています。
請求額と入金額の整合
例えば税抜10,000円+消費税1,000円の合計11,000円を請求した場合に、入金される金額はいくつも想定されます。
- 11,000円
- 11,000円から振込手数料を控除した金額
- 税抜金額から求めた源泉徴収税額1,021円を控除した9,979円
- 税込金額から求めた源泉徴収税額1,123円を控除した9,877円
- 9,979円から振込手数料を控除した金額
- 9,877円から振込手数料を控除した金額
- 上記のほか、更に立替経費を加算した金額
- 上記のほか、別の請求書と合計した金額
どれに該当するか、請求書をひとつひとつ確認して、入金額とつじつまを合わせる必要があります。
大手の会社は、支払の都度、支払明細書を交付してくれますが、中小零細の会社の多くは支払明細書を交付してくれません。中小零細の会社は特に、源泉徴収に詳しくない場合もあるので、振り込まれた金額に誤りがあるかもしれません。
取引先ごとにパターンがあり、それを手早く集計するにはExcelなどの表計算ソフトでの集計スキル(ショートカットキーやピボットテーブル)が問われます。
売上額は11,000円、源泉徴収税額1,021円(または1,123円)、振込手数料相当額は必要経費、といった切り分けをするにも、正しい金額に達するまで結構な時間を要します。
さらに、年明けに取引先から交付される支払調書と整合するかも検証する必要があります。
支払調書は、1年の支払額と源泉徴収税額を1枚の紙に味気なく書いてあるだけに見えますが、特に源泉徴収税額は、納税額(または還付税額)に直接影響するのでとても神経を使います。税務署も税務調査の際は、時間を使って調査します。
事業税の観点
詳細は他に譲りますが、法定業種で、かつ、一定金額以上の所得がある場合は、事業税が賦課されます。
自治体によって取扱いが異なるものの、所得税の確定申告の業種欄や所得の内訳書、税務当局からの照会に対する返答の表現によっては、本来納税する必要のない事業税を納付することになる可能性があります。
その線引きはとても繊細です。税理士へ相談するのがベターだと考えます。
会計事務所の対応
語弊を恐れずに申し上げると、それなりに仕事が早く同年代の税理士に(いつ退社するか分からない会計事務所の担当者ではなく)確定申告を依頼するのが良いと思います。
税理士海老名は、30-40代の同年代のクリエイターさんから、所得税、消費税はともかく、ライフステージに沿った内容のご相談を多く承っております。
若手やバイトの職員には難しい
報酬の源泉徴収がある場合、これまでご説明したとおり、その集計に時間やノウハウを要します。
会計事務所の若手の職員や会計ソフトに仕訳を入力するのがメインのパートの従業員にとっては、単純な入力作業のほか、請求額と入金額のつじつまを合わせる難易度が高いです。
税務の知識はもちろん、パソコンスキルも求められるため、「源泉徴収ありかつ消費税申告あり」の場合は、仕事の早い税理士が直接関与した方がよいとの意見もあるほどです。
税理士海老名は、クリエイターさんの確定申告を承ったのは開業した2016年以降のことです。経験のなかで工夫をしてクリエイターさん達の確定申告を支えてきました。
税理士に相談するのなら年内がおすすめ
会計事務所は、時期的に10-11月は他の時期に比べてそれほど忙しくない場合が多いです。ただし、年末調整業務が徐々に入り、年明けからはいよいよ繁忙期になります。
そのため、年内の今の時期に会計事務所に相談し、取り急ぎ
- 通帳の写し(csvまたはコピー)
- 売上の請求書(Misocaやマネーフォワード、freeeなどのcsvデータやログイン権限の共有)
を渡して、売上だけでもあらかた年内に分かるようにしておくのが良いと思います。
領収書類もできるだけ月ごと、項目ごとにまとめて年内の早い時期に引き渡すことをお勧めします。